Blog Marketingだって、基本は同じ

 手法、媒体、理論ー。マーケティングと呼ばれる領域は日々変化している。でも、基本的な考え方はそれほど変わっていないはずだ。対象を定め、その嗜好にあったモノ/サービスを生み出し、その行動特性にあったチャネルを使って広告/流通させ、購買に至らしめる。これはインターネット上でも変わらないし、むしろインターネット上ではこの基本を忠実に実行するためのツールが比較的そろっている。しかし、こと「Blog Marketing」となると、なぜかこの基本が忘れ去られてしまうような気がしてならない。

 17日夜、大手町ビジネスイノベーションインスティチュート(Obii)でご一緒させてもらっている、ガ島通信の藤代さんに誘われて、神楽坂のとあるホテルの一室を訪ねた。ソニーのブロガー向けイベント「Extention Line by VAIO 体験サロン」に参加するためだ。元々、ソニーという会社が好きでないこともあって、なんとも釈然としない気持ちで、ソファーに座りながら説明を聞いていた。「モニター」と称して、ある製品を渡したいと申し出られ、藤代さんがお断りしていたとき、ソニーの担当者が言った。「たしかに、なぜこの6人なのかと聞かれたら答えられません。この6人をお呼びした理由が、不明確だからです」ー。おいおいと思った。同時に釈然としない理由が分かった。何となく違和感があったのは、ソニーが好きでもないのにその場にいたことではなく、会の趣旨/目的が不明確で理解しがたかったからだった。

 ソニーは、立派な会社だ。きっと普段のプロモーションでは、きちっとセグメンテーションをしてターゲットを絞り込み、これを訴えたい、これを感じてほしいとメッセージを絞り込んでいるはずだ。でも、ことブログマーケティングとなると、それが吹き飛ぶ。確かに前回の失敗もあるだろう。でもその失敗も、いつも当たり前にやっていたことを怠ったが故の失敗ではなかったか。

 ソニーに限らず、ブログマーケティングで問題になったものは、すべからくこの基本が抜けているような気がする。「売る!」とか「知ってほしい!」とか、そこにあるのはむき出しの欲望だけではないだろうか。少なくとも、ブロガーにどういう形でその商品について語ってもらいたいのか、どういう場の設定をしたら語ってもらえるのか、どういうブロガーなら思っている方向性で語ってくれそうなのか、が見えない。要は、なぜそのブロガーなのかがよく分からないのだ。結果として、単純に有名ブロガーを集めて、様々な便宜を与え、そのブログを読む読者から、ブロガーも企業も反感を買うことになったりする。こうなれば、普通のブロガーなら、おいそれと近づけないなと考えてしまう。藤代さんもよく言及されているが、その結果、PRブロガーばかりになる恐れがある。

 でもどうだろう。エントリでしばしば様々な商品について、新しい使い方を提案しているブロガーばかりを集めて、ある商品の使い方を考えてもらうようにしたら、きっとそんなに反感を買うことはない。同様に、企業のマーケティングについて言及するエントリを書いているブロガーを集めて、ある商品の売り方/見せ方を考えてもらったら、これもそんなに反感を買わないのではないか。つまり単純に「商品について書いてほしい。できれば好意的に」ではなく、「どういう切り口で商品について書いてほしいか」という方向性を示した上で、その方向性にあった、しっかりとしたエントリを多くあげているブロガーを見つけ、集めれば、納得が得られるのではないかということだ。エントリという、ブロガーの人格と企業が開く場の方向性が合致さえすれば、「この方向性なら、この人が選ばれるよね」と読者から好意的に受け止められると思う。つまり、ブログでのプロモーションも、マスメディアでそれを行う場合と同様かそれ以上に、その目的/方向性にあった媒体(ブログ)を慎重に選ぶことが重要でなのだ。あまりにも単純で、面白くも何ともないが、新しいメディアでも、きっとそんな単純で面白くないことが意外と大事なんだと思う。

 ところで、よく考えてみると、当日に見せていただいた商品にしてもそうだ。丸いテレビサイドパソコン、同じ形のデジタルチューナ、WiFiオーディオ。どれも、どう使ってほしいかは伝わってくるが、誰にどんなときに使ってほしいのか、が分からない。こう使ってやろう、という意欲をかき立てるものでもない。でも商品はちょっといまいちだったけど、開発者、企画者、マーケッターはとても面白い人たちだった。不思議なもので、その思いや商品の愛着を聞くと、ちょっと欲しいなと思った。ソニーも捨てたものじゃないなと思った。きっと、いつか、彼らが呪縛や見えないプレッシャーから解放されたなら、いい製品ができることは間違いない。そのときにはiMacThinkpadの片脇に、バイオを置いてみたい。


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